「気持ちを込めて」だけでは伝わらない
「もっと気持ちを込めて」と言われて、こまった経験はありませんか。
気持ちは、心の中で強く願うだけでは声にのりません。
のるのは、息にのせられた言葉です。
だから順番は、いつも「息 → 言葉 → ふし」になります。
声を使う道は、歌・語り・ナレーション・人に教えることなど、いくつもあります。
入口はちがっても、最初に整える土台はこの順番で共通です。
まず息を支える(1日5分)
息がゆれると、声もゆれます。
表現の前に、息を支える練習を少しだけ入れましょう。
- 肩の力をぬき、口から細く長く息をはく(まず10秒、慣れたら15秒)
- 軽くハミング(口を閉じ鼻でひびかせる声)で、息と声をつなぐ
- 歌詞を、歌わずに「話すように」声に出す
- 最後に、ふしをつけて歌う
合計5分ほどで十分です。
のどに違和感が出たら、その日はハミングまでで止めます。
のどの痛みや声がれが2週間以上続くときは、無理をせず耳鼻咽喉科に相談してください。
歌詞を一行ずつ「かみくだく」
気持ちは、言葉の意味を感じたぶんだけ声に出ます。
そこで、歌う前に歌詞を一行ずつ読みます。
たとえば「ふるさと」の一行目。
- だれが=ふるさとを遠くで思い出す大人
- いつ=今ではなく、子どものころ
- 気持ち=なつかしさと、少しのさみしさ
この三つを思いうかべてから声を出すと、同じメロディーでも色がかわります。
特別な才能ではなく、だれでも追える手順です。
練習曲は「著作権が切れた曲」から
題材には、著作権が切れた曲が向いています。
これは作曲者の死後70年がたち、だれでも自由に使える曲のことで、「パブリックドメイン」とも呼びます。
楽譜が手に入りやすく、安心して録音もできます。
最初の一曲には、言葉になじみのある日本の歌がおすすめです。
- 滝廉太郎「花」、文部省唱歌「春の小川」「ふるさと」
- 慣れてきたら、シューベルト「野ばら」など短い歌曲へ
感じる力と、伝える力は別もの
声を学んだ先には、人に教える道もあります。
ここで大切なのは、上手に歌える力と、上手に教える力は別だということです。
教える人に効くのは、次の見方です。
- 自分がつまずいた所と、抜け出せた手順を覚えておく
- 「なんとなく」を、相手に届くやさしい言葉に言いかえる
- 直す前に、相手のよい所をひとつ先に伝える
つまり、舞台で演じる人だけでなく、自分の感覚を言葉にして手わたす人にも、声の仕事は開かれています。
自分に向く歩き方を確かめる
気持ちを声にのせる土台は、息の支えと、言葉を感じる心の二つです。
どちらも、今日5分から育てられます。
ただ、歌う側が向く人と、教える側が向く人がいます。
どちらに近いかは、適性診断の数問で見えてきます。
迷っている段階こそ、まず確かめてみてください。
よくある質問
- 気持ちを声にのせるのに、才能はいりますか?
- 特別な才能がなくても始められます。息を支え、歌詞を一行ずつ「だれが・いつ・どんな気持ちか」とかみくだく手順をくり返すことで、表現は少しずつ育ちます。
- どんな曲で練習するのがよいですか?
- 著作権が切れた曲が向いています。滝廉太郎の「花」や文部省唱歌などです。言葉になじみのある日本の歌は気持ちをつかみやすく、最初の一曲におすすめです。慣れたらシューベルトの短い歌曲へ進みます。
- 声を出すとのどが痛くなります。どうすればいいですか?
- まず練習を止めてのどを休め、次回は肩の力をぬいて長く息をはく練習とハミングだけに戻します。痛みや声がれが2週間以上続くときは、無理をせず耳鼻咽喉科に相談してください。
参考にした一次情報
- IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト) — パブリックドメイン楽譜
- CPDL(Choral Public Domain Library) — 合唱・声楽の自由利用楽譜
- シューベルト 歌曲「野ばら」D.257・「子守歌」D.498(作曲者没年1828年)
- 滝廉太郎「花」(1900年・作曲者没年1903年)/ 文部省唱歌「春の小川」「ふるさと」

