IPAは「歌の音」を世界共通でメモするための記号です。どの言葉でも、音をまよわず正しく書けます
歌をうたうとき、外国語の歌詞は読み方になやみます。そんなときに役立つのが「IPA」という記号です。これを知ると、知らない言葉でも音をまよわずにメモできます。
IPAって何ですか
IPAは「音をそのまま書くための記号」です。正式には「国際音声記号」と言います。世界の音声を研究する団体が、1888年に作りました。
ふつうの文字には、こまった点があります。同じつづりでも、言葉ごとに読み方が変わるからです。たとえば英語の「sh」と「s」は、にているのに別の音です。IPAなら、この2つを別の記号で書きわけられます。音があいまいになりません。
なぜ歌い手に役立つのですか
IPAを使うと、外国語の歌詞を正しい音でうたえます。これが一番の利点です。
理由は、歌では「母音」がとても大事だからです。母音とは「ア・エ・イ・オ・ウ」のような、口を開いてひびかせる音です。声のひびきや声量は、この母音が中心になります。
外国語には、日本語にない母音があります。たとえばドイツ語の「ü」です。これは「イ」の舌のまま、くちびるを丸めて出す音です。耳で聞いただけでは、まねがむずかしいです。IPAで記号を見ると、舌とくちびるの形がわかります。だから音をつかみやすくなります。
母音と子音をIPAで見わける
IPAは、音を大きく2つに分けます。母音と「子音」です。子音とは、口を一度せばめて出す音です。「パ・タ・カ」がその例です。
母音は、3つの形でできています。
- 口の開き方
- 舌の高さ
- くちびるの丸め方
この3つの組み合わせで、音が変わります。IPAはこの形を記号にしています。だから記号を見れば、口の作り方がわかります。
具体例: イタリア語の「e」と「o」
イタリア語には、にているけれど別の母音があります。これを例にすると、IPAの便利さがよくわかります。
イタリア語の「e」には、2つの種類があります。1つは口を少しせまく開ける「明るいエ」です。これはIPAで「e」と書きます。もう1つは、口を広く開ける「ひらいたエ」です。これは「ɛ」と書きます。
「o」も同じように2つに分かれます。日本語にはこの区別がありません。耳だけでは気づきにくいのです。楽譜にIPAを書きこんでおくと、どちらの音かをまよわずに歌えます。
高い音では母音を少し変える
高い音をうたうとき、母音の形を少し変えると楽になります。これを「母音変容」と言います。
たとえば高い音の「ア」を、「オ」に近づけて出します。すると声のひびきがととのいます。のどへの負担もへります。これは多くのプロが使う、自然な工夫です。IPAを知っていると、この小さな変化も書きとめられます。
教えるときに役立つこと
IPAは、教える人にとって「共通の言葉」になります。これが大きな利点です。
口で「もっと明るく」と伝えても、人によって受け取り方がちがいます。あいまいさが残ります。そこでIPAの記号を使います。すると、出したい音を1つに決められます。生徒との行きちがいがへります。
教えるときのこつを、いくつか挙げます。
- 楽譜に記号を書きこむ習慣をつける
- お手本の録音とくらべて、音を耳で確かめる
- まず母音だけを取り出して練習する
- 1つの音を、舌とくちびるの形で説明する
なお、発音の練習でのどに痛みや強い不調を感じたら、無理をしないでください。そのときは専門の機関に相談しましょう。声は道具です。だいじに使いながら学ぶことが、上達への近道です。
IPAは少しずつ覚えれば大丈夫です。あなたが「声を教える」ことに向いているか、まずは適性診断で確かめてみてください。
よくある質問
- IPAは全部覚えないと使えませんか。
- いいえ。最初は自分がよく歌う言葉の音だけで大丈夫です。母音から少しずつ覚えると、楽譜に書きこんで使えるようになります。
- 楽譜のどこにIPAを書けばよいですか。
- 歌詞の文字の上か下に、小さく記号をそえます。とくに、まよいやすい母音にだけ書いておくと役に立ちます。
- 日本語の歌にもIPAは役立ちますか。
- はい。のばす音やはねる音の形をそろえるのに使えます。ただし外国語ほど差は大きくないので、まずは外国語の曲で練習すると分かりやすいです。
参考にした一次情報
- MUSEION 声楽用語事典(発音(IPA)の章)

