結論:指導力とは、相手に合わせて教え方を変えられる力です
ボイストレーナーに国家資格はありません。だから「資格があるから教えられる」のではありません。本当に大切なのは、目の前の一人に合わせて、教え方を変えられる力です。これは才能ではなく、学んで身につく力です。
なぜ「同じ教え方」ではうまくいかないのか
人の声は、一人ずつちがいます。
声の高さも、体の使い方も、得意なこともちがいます。だから、ある人にぴったりの言葉が、別の人にはまったく届かないことがあります。
「もっと響かせて」。この一言で動ける人もいれば、まったく分からない人もいます。同じ教え方を全員にあてはめると、合わない人がこぼれてしまいます。
一人に合わせるための3つのステップ
① よく見て、よく聞く
まず、その人の今の声をていねいに聞きます。どこがうまくいっていて、どこでつまずいているか。決めつけず、目の前の人を観察します。
② 言葉を選びなおす
伝え方は、ひとつではありません。
ある人には「あくびをするように」。別の人には「声を前に置くように」。同じことを伝えるのに、何通りもの言い方を用意しておきます。相手にいちばん届く言葉を、選びます。
③ 小さなゴールに分ける
大きな目標は、小さく分けます。一度に多くを求めず、今日できそうな一歩を示します。できた経験が、次のやる気につながります。
「正解を押しつけない」という考え方
指導とは、自分のやり方をコピーさせることではありません。
その人がもっている良さを見つけて、のばすこと。これが、一人ひとりに合わせるということです。だから、教える側はいくつもの引き出しを持っておきます。
引き出しは、学べば増えます。声のしくみを知り、たくさんの例にふれることで、対応の幅が広がります。
体の不調には、ふみこまない
声の指導では、体の話が出ることがあります。
ただし、トレーナーは医師ではありません。のどの痛みや、声が出にくい状態が続くときは、無理に練習を続けないことが大切です。痛みや強い不調があれば、専門機関へ相談してください。安全を最優先にする姿勢も、指導力のひとつです。
教えるときに役立つこと
一人ひとりに合わせる力は、生徒さんとの信頼を育てます。
「この先生は、私のことを見てくれている」。そう感じてもらえると、生徒さんは安心して声を出せます。安心は、上達の土台です。
そして、この力は記録すると育ちます。「この人にはこの言い方が効いた」。気づきをメモにためていくと、自分だけの引き出しが増えていきます。一人で抱えこまず、学び合える場があると、もっと早く身につきます。
自分に合う学び方を確かめてみる
人に合わせて教える力は、生まれつきのものではありません。学んで、練習して、少しずつ育てるものです。
「自分にも向いているかな」。そう思ったら、適性診断で、今の自分に合う学び方を確かめてみてください。あせらず、一歩ずつで大丈夫です。
よくある質問
- ボイストレーナーになるのに資格はいりますか?
- 国家資格はありません。だれでも名乗れます。ただし、安全に教える知識と、一人ひとりに合わせる力は学んでおきたいものです。
- 自分が歌うまくなくても、人に合わせて教えられますか?
- はい。歌の上手さと、教える力は別ものです。相手をよく見て、伝え方を選べることのほうが大切です。これは練習で身につきます。
- 一人ひとりに合わせるのは、むずかしそうです。
- 最初は数を持たなくて大丈夫です。うまくいった言い方を少しずつメモにためると、引き出しが増えます。学び合える場があると、さらに早く身につきます。
参考にした一次情報
- MUSEION 声楽用語事典(発声・指導法の章)
- 版権切れ声楽データベース vocal_works(レパートリー別の教材例)
